◆藤沢市周辺にお住まいで生きもの好きのお子さまと保護者の方へ
ひなた体験学舎に通ってくれている皆さんは、ヤモリやコクワガタ、カラスウリのタネなどを持ってきてはここで育てています。これからは、自然や生きものに関する活動をダビンチくらぶのメインテーマとして取り扱おうと思います。今回は「生きもののともだちを100人つくろう」と題するこの活動についてお話しします。
まず日程を少し変更し、土曜の午後と日曜の午後にダビンチくらぶを開きます。土曜のクラスは4歳以上の小さい子を混じえた内容とし、手先の器用さを育むことに重点を置きます。日曜のクラスは小学4年生以上を対象とします。自然科学につながる野外体験を中心にして、大きな子たちの全力を引き出したいと考えています。
たくさんの生きものと出会って名前や姿を知るには時間がかかりますが、興味を持てばストレスはありません。人間のともだちの名前を覚えるのに苦労しないのと同じです。100種類ほど覚えた頃には、もっと知りたいと思うようになっているはずです。100という数ははじめの一歩にすぎません。数百種類も覚えたら、身近にみかけるほとんどの生きものの名前がわかるようになります。時間をかけて楽しくたくさんの生きものとともだちになりましょう。
生きものの名前と姿がわかると何がいいのか、もう少し説明します。まず、心が豊かになります。昔の人は季節の変化に敏感でした。身近な生きものをよく知っていて、日々の生活で話題にしていました。現代の私たちも、「あそこの石段の横にあるヤマザクラが咲いてたよ、春だね。」とか、「〇〇公園のヤマモモの実はもう食べられそうだよ」などと家族で話せたら素晴らしいではありませんか。心に余裕が生まれると思います。また、地域の自然に触れることは地域を愛する心を育むことにつながります。
身近な生きものの名前を知ることは文化の理解に通じます。「夏は来ぬ」という歌の冒頭に「卯の花の匂う垣根に」とありますが、うのはな(ウツギ)は春に白い花を咲かせる低木で、この近所でも林の縁や生垣でみかけます。この花を知ると、作者がこういう身近な景色をうたっているのだと分かります。清少納言の枕草子には、クスノキ、シラカシ、センダン、ウツギ、カナメモチなどが出てきます。これらも庭木や街路樹として今も普通に育てられていますから、名前と姿がわかれば千年前の作者が見ていたものと同じ植物を見ることができます。将来、文化芸術を目指す人にもダビンチくらぶが役に立つと思います。
生きものを知ることは生物種や生物多様性を専門的に勉強する道につながります。子どもの頃に生きものの趣味にのめり込むと、やがて自分で専門的なことを調べるようになります。そうした中の一部の人が本当に専門家になるのですが、ぼくの知り合いの先生や仕事仲間はそんな子ども時代を過ごした人ばかりです。一見遊びのように見える生きものの体験学習は、生物学に向かう進路としては必須の立ち寄り所なのです。
自然環境問題に興味がある人にも、身近な生きものにじかにふれる体験を積んでほしいと思います。自然環境の問題は人間の幸せと野生生物の幸せの両方をバランスよく考えることが大切です。自然環境の仕事に関わってきた経験から、この問題について中立で的確な発言ができる人は、子どもの頃にどっぷり生きものに触れた体験をもつ人に多いように感じます。
生きものが好きになるには、はじめの一歩だけ背中を押してあげればよいと思います。ダビンチくらぶは二つのクラスを通じてそのお手伝いをします。まだ試行段階ではありますが、これまでに行った例を紹介します。土曜クラスでは近くの公園でどんぐりと落ち葉を拾いに行きました。部屋に戻ってどんぐりコマをつくり、綺麗な色の落ち葉を台紙に貼りました。押し葉標本を作る練習です。これによって、参加してくれた4歳から7歳の子どもがどの程度の工作ができるのかをみることができました。今後の企画に反映します。
日曜クラスでは、今後の野外観察ができる場所を探しました。近くの田んぼ周辺を歩きました。ドジョウや小魚と中型哺乳類の足跡を確認しました。次の回は近くの城址公園に行って生えている植物の種類を調べました。中央の公園部分には植栽された園芸植物、周辺部の林にはシイノキ、アカガシ、アベマキ、イイギリ、タブノキ、イヌガシ、マンサク、ガマズミ、ムラサキシキブといった、山間部の豊かな自然林でみられる種類が生えていました。今後、植物の野外観察の場として何度も通える公園であることがわかりました。
この後、日曜のクラスでは生きものに関わるさまざまな活動を参加者と一緒に企画して実施します。植物や野鳥の観察会、押し葉標本つくり、昆虫標本を作ったりそれを保管するための道具作り、鳥の巣箱作り、屋外水槽で魚や水草や水生昆虫を育てることなどを予定しています。11月中はまだ下見や実験的な企画であるので参加は無料ですから、ぜひお気軽にご参加ください。
活動内容やそこで得られた情報、製作物の設計図などはみんなで共有します。これをダビンチくらぶの活動成果として保存します。一部の情報はホームページを通じて外部に発信することも考えています。みんなで相談して学校の自由研究で発表しても構いません。楽しく真剣に打ち込んでもらえたら、この活動成果は地域の自然史のひとつとして積み上がっていくと思います。
市河三英