思うこと

宇宙で知性の記録をさがせ

 宇宙人の話の続きです。空想のお話です。

 地球人が生きながらえず、宇宙人との交信も不可能に近いとなると、一方的に存在を示すメッセージを送るしかありません。それはどのような内容になるでしょうか。21世紀にもなってまだ戦争をしているようではこんなラストメッセージを考えざるを得なくなります。それはまた宇宙人に対してだけでなく、別の方法でヒトの次の地球人にあてても残さねばなりません。でもぼくたちはこんなものを用意しなくて済むように今、賢くなりたいと思っています。

ロゼッタ

 「ようこそ彗星アースへ。あなた方がこの彗星とこの石碑「ロゼッタ」を発見されたことを喜ばしく思います。我々は天の川銀河、太陽系第三惑星地球の生命体です。地球は宇宙が発生してから92億年後に生まれました。地球が冷えるとすぐに生命が発生し、40億年が経つ現在、約一千万種の生物が生きています。この多様な生物の中で知性が得られたのは直立二足歩行をする社会性哺乳類の数種類だけで、このメッセージを作った時にはたった一種類、我々ヒトだけが残りました。ヒトはこれこれこういう歴史を辿って宇宙に進出するほどの技術を獲得し、そしてこれこれこういう事を繰り返して自らの生きる場所を失い、今まさに絶滅の時を迎えています。このメッセージが届く頃にはヒトは滅んでいるでしょう。

 地球人であるヒトが滅びるのは、生きる権利が保証されていた環境を自らの手で破壊してしまったからです。地球人は、それが自らの存在を否定する行為であることを一部の個体は理解していました。しかし、大多数の個体の自然で利己的な欲求によって、種の存続よりも個体の利益が優先されました。我々は、知性を獲得することによって永遠の豊かな暮らしが保証されたと思っていましたが、それは大きな間違いでした。地球人の知性は、種の存続が個体の献身の上に成り立つ生命の基本ルールを克服することができませんでした。

 あなた方がこの宿命をどのように受け入れられるか、あるいはどのように克服されたかには大変興味があります。我々にそれを知ることができないのが残念です。しかし、知的活動が短いものであったとしても、地球人が生み出した文化や芸術、到達した科学理論は永く宇宙に残しておきたいと思います。そうでなくては単なる自己複製型の有機化学連続現象である生命から、自己を理解する知性が生まれた奇跡が虚しいからです。この石碑の下、彗星の中心部に地球人の全記憶が入った媒体が埋められています。どうかよく解読されん事を願います。
地球人より愛を込めて。絶対時空座標: %^+$£,#%^,><~$€,|$€*。」

彗星アース

 こんな感じでしょうか。他の惑星の宇宙人も同じように考えるでしょうから、宇宙のどこかには過去の生命惑星から放たれたラストメッセージを乗せた人工彗星が回っているはずです。たかだか1000年程度の期間電波を発信し続けたとしても相手がその期間、知的宇宙人として存在している可能性は低いし、物体を発射するとしても片道軌道では発見されにくいからです。だから、明らかに人為的とわかる形状と周期で派手な尾をひく人工彗星が複数個回してあり、見つけられるのを待っているはずです。地球人は宇宙に残されているその知性の記録を見つけなくてはなりません。そこにはその惑星の人たちが到達した科学技術や文化芸術、そして絶滅の宿命を逃れる教訓が書かれているはずです。ぼくたちは地球人が絶滅に向かわないようにしたいと思っています。だから今の地球でできることを考えて実行するのですが、一方でいくら変人と言われようとも、宇宙人が発したメッセージを探し続けることは重要です。夢とかロマンとかそういうものではありません。一縷の望みなのです。

※おもしろかった映画や本
映画 「2001年宇宙の旅」(原題 2001: A Space Odyssey ) スタンリー・キューブリック監督 1968 キア・デュリア主演
映画 「コンタクト」(原題 Contact)   ロバート・ゼメキス監督 1997  ジョディー・フォスター主演
本 リチャード・ドーキンス 「利己的な遺伝子」(原題 The selfish gene) 日高敏隆ほか訳 (40周年記念版が出てました。地球生命が何億年も続く原理がわかります。)

市河三英

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