ぼくは小学校に入るまで文字や数を教わらなかったので、一年生になっても10から1まで逆に言うことができませんでした。放課後残されて先生に特訓させられたことを鮮明に憶えています。算数嫌いはこの時にはじまったのだと思っていました。数に苦労していたぼくを先生はしぶとく教えてくれました。二桁の足し算や引き算も、筆算でなんとかできるようになりました。暗算だけはいつまでたっても苦手でした。それは大人になるまで続き、コンプレックスとして染み付いています。からっきし計算のできないぼくを、筆算ができるようにしてくれた当時の先生には感謝しています。でも定年退職して時間ができた今、なぜ自分はあんなに苦労したのか、いつまでたっても暗算が苦手だったのかについて振り返ってみようと思いました。
時間をかけていろんなことを思い出したり、本を読んだりして整理しましたら、いくつかヒントがみつかりました。算数が苦手になったのは入学前に数を習っていなかったからでも一年生の時に放課後残されたからでもなく、別のところにありました。算数の入り口の、数とはこういうものだよという時の教え方が、ものごとを映像で捉えがちなぼくには理解しにくかったのでした。こうすればわかったはずだ、という方法も考えてみました。いろいろなタイプの子がいますから、全ての子供にそれが合致するかどうかはわかりません。でも子供の頃の自分にこの方法で算数を教えてやれたら、人生のほとんどをコンプレックスを抱えたまま生きなくて済んだかもしれないと思いました。遅きに過ぎますが、心は少し軽くなりました。
昔の僕のように算数から逃げまどっている子供やこれから算数に入る子がいたら、「そんなに怖がることはない。算数はわりと楽しくやれるもんだよ」と言ってあげたいと思います。「かずのこクラブ」はそのために作りました。
※関連する本など
◆遠山啓「さんすうだいすき」シリーズ
◆吉田武「虚数の情緒 中学生からの全方位独学法」 (枕のように分厚い本ですが、私のように算数から取り残された者にもわかりやすく書かれています。「第I部 独りで考える為に」には心にストンと落ちる言葉がいくつもありました)
市河三英