ひなた体験学舎は小さな成功や失敗の体験を積むことで自信を育んでいくことを基本的な方針に掲げています。文字の手習いをする「もじっ子クラブ」、ブロックなどを使った数の体感から算数に入る「かずのこクラブ」、自然科学につながるさまざまなもの作りをする「ダビンチくらぶ」のカリキュラムを用意しています。共通するのは自分の手を動かしてもらうことです。詳細はホームページをご覧いただくとして、ここではひなた体験学舎が大切と考えている「体験」について述べます。
体験には楽しい体験と辛い体験があります。私たちは、辛い体験は自分から進んでする必要がないものと考えています。一方、楽しい体験はわざわざ準備してでもやっておく方が良いものと考えています。我々が用意する楽しい体験は、毎週の手習いから一度かぎりのイベントまでいろいろな形がありますが、どれも最後には自信という形で身についていくものと考えています。
例えばハサミを使ってお人形が切り出せたという小さな成功体験はこどもの喜びになります。この小さい自信は、ほかのこともできるかもしれないと考える勇気を生むでしょう。小さな失敗も大切な体験です。失敗をへて成功に至る体験は「こうすればいいんだ」という認識をつくり、「じゃあ次は」とステップを進める自信が生まれると思います。挑戦する自信は子どもの前向きな推進力になると考えています。
何かを決めなくてはならないとき、自身の体験を根拠にして「これはやれる」あるいは「これは無理」と判断することができます。つまり判断する自信が生まれます。体験したことがないことを判断する時は、根拠を他に寄らねばなりませんから迷いも生じます。体験をもとに判断されることは大人の方々はもう何度も経験されていると思います。自信を持って判断したことには積極的に取り組めると思いませんか。判断する自信もまた前向きな推進力を生むと思います。
ぼくは生き物が好きだったので、教科書で教わったことを山の中で自分の目で確認する機会がたくさんありました。植物を仲間分けするときの目印で、葉が茎の一箇所から左右2枚ずつ出ている付き方を対生、一枚ずつ交互に付くのを互生といいます。それを習ったあと、山に虫採りに出かけたついでに木の枝を見て「あ、これのことね」と納得します。ただこれだけのことで知識が体験によって補強されます。「対生と互生は見ればすぐわかるよ」とか「カエデは対生だから葉っぱのない冬でもわかるんだ」などと見てきたように言えるようになります。知識と体験の順番はどちらが先でもいいと思います。確実な根拠によって補強された知識は正しい認識となります。応用を考える時にも状況に合わせて使いこなすことができるでしょう。「知恵がつく」とはこういうことかも知れません。
自分の手を動かす楽しい体験からは、挑戦する自信、判断する自信、認識の補強という、三つの明確な効果が生まれると私たちは考えています。子供の頃に身につけた事は生涯使い続けることができます。また子供は一回の楽しい体験を一生覚えていられるという素晴らしい特性も持っています。ひなた体験学舎は、子供たちがこれから人生を歩んでいく上で大切な力を身に着けるために、さまざまな体験を一緒に積んでいきたいと考えています。
市河三英